経費(損金)の処理において欠かせないのが領収書です。領収書は支払いを証明する書類ですが、「取引先の方に渡すため、自販機でコーヒーを買った」というときには、領収書が発行されません。このような場合に支払いを証明するには「支払い証明書」を作成するという方法があります。
ここでは支払い証明書とはどのようなものなのか、領収書との違いや正しい書き方、注意点を解説します。
支払い証明書は「領収書が発行されない支払い」を証明する書面
支払い証明書とは、端的に言うと「領収書が発行されなかった支払いを証明する書類」です。
支払い証明書を所定の必須項目を含めて作成し、かつ参考資料を併せて準備しておけば、「領収書と同じ効力を持つ支払いの証拠」として使用できるようになります。
一般的に支払いを証明するための書類には「領収書」「レシート」などがあります。
経理、会計業務を行う際には領収書やレシートをもとに「支出」「勘定科目」などを帳簿へ記録し、経費として処理します。
しかし、支払いの性質やタイミング、目的によっては、領収書が発行されなかったり、もらえなかったりといったケースもあるでしょう。
たとえば以下のケースでは、領収書が交付されない場合が多く見られます。
- バス、電車の運賃
- 自動販売機で買った飲み物代
- カフェで打ち合わせをした際、ワリカンで支払ったドリンク代
- 営業の情報を得るために売店で購入した新聞、雑誌代
- 取引先への冠婚葬祭費(ご祝儀、香典など)
自販機で購入した飲み物代は、レシートが発行されない支払いのひとつでしょう。
また取引先の関係者へ送るご祝儀や香典については、領収書が発行されないのが当たり前です。
むしろ、領収書の交付を要求する方が失礼にあたります。
ただし、領収書がないままでは支払いを証明できません。
そこで登場するのが、領収書代わりの「支払い証明書」なのです。
支払い証明書と領収書、出金伝票はどう違う?
支払い証明書と領収書はよく似ていますが、この2つに違いはあるのでしょうか?
また、支払い証明書と出金伝票は同じなのでしょうか。
それぞれの違いや共通点などを見ていきましょう。
支払い証明書と領収書の違い
領収書は「支払い代金を受領して収めた証明書」であり、支払い証明書のひとつに分類されます。
よって、支払い証明書=領収書といっても差し支えないでしょう。
ただし支払い証明書とは「支払いを証明する書類」であり、領収書をはじめレシート、クレジットカードの利用明細書、請求明細書なども含まれます。
また領収書等の交付されていない支払いに関しては、出金伝票などを使って自身で「支払い証明書」を発行することになります。
大きなくくりのカテゴリが「支払い証明書」であり、細分化されたものが領収書やレシート等である、というわけです。
支払い証明書と出金伝票の違い
出金伝票とは、領収書やレシートが交付されない支払いを証明する書類です。
よって支払い証明書と出金伝票は同じであり、その内容もほぼ同じです。
出金伝票はExcelなどで自作できるほか、メモパッド状に綴られている出金伝票を100円均一ショップ、文具店などで購入することもできます。
なお、支払い証明書に関しても、Excel等による作成、および文具店などでの購入が可能です。
支払い証明書は税務調査に役立つ?
外部機関が発行する「領収書」「レシート」は税務調査で支払いの証明として認められています。ここで気になるのが、「支払い証明書は税務調査で“支払いの証拠”として役立つのか?」という点です。
結論から言うと、社内で作成した支払い証明書も、領収書と同じように税務調査での「支払いの証拠」となります。
外部が交付した支払い証明書類がある状態がベストではありますが、そもそも税務調査は「支払いの事実があったか」を確認し、総合的に判断するのが目的です。
よって、領収書がない支払いであっても、証拠となる関係書類が揃っていて、かつ「支払いの事実があった」と判断されれば、支払いを証明できます。
このように判断されれば、領収書出なくとも損金算入(経費として計上する)が可能です。
支払い証明書の正しい書き方をチェック
支払い証明書の書式に法律上の規定様式はありません。よって、会社独自の支払い証明書を作成・発行しているケースも多く見られます。
ただし書式は自由であるものの、「仕入税額控除」を受ける場合は別です。
仕入税額控除をするには、消費税法第30条で規定されている以下の5点を必ず記載しなければなりません。
- 支払日
- 支払い先
- 支払い金額
- 支払った理由(内容)
- 作成者
このほかには、会社独自で「数量」「単価」「書類No.」などを含む支払い証明書を作成するケースもありますが、あくまでも必須なのは上記の5点です。
ただし、接待交際費については相手の名前などを記入しておいた方があとあと役立つ場合もあるので、覚えておきましょう。
1.支払日
支払い証明書で欠かせないのが「支払日」です。
実際に支払いを行った日付を記入しましょう。
2.支払い先
代金を誰に(どこに)支払ったのか、支払い先の名称を記入しましょう。
たとえばご祝儀を渡したのであれば「○○株式会社 ○○ ○○様」と渡した相手の個人名を記入します。
自動販売機であればそのまま「自動販売機」でかまいません。
交通費の場合は「JR」「○○バス」などを支払い先として記入します。
3.支払い金額
支払い証明書には実際に支払った金額を記入する必要があります。
- 総合計額
- 小経学
- 消費税額(税率%も含む)
以上を順に記入しましょう。
4.支払った理由(内容)
支払い証明書には取引内容も記載します。
何に、どのような目的で支払いを行ったのか、客観的にわかりやすく記入しておきましょう。
5.作成者
支払い証明書を作成したら、作成した本人の氏名を記入します。
6.科目が接待交際費の場合は相手の名前、関係性を書く
勘定科目が「接待交際費」にあたる場合は、備考として「相手の名前」や「関係性」を支払い証明書へ記入しておきましょう。その際の打ち合わせ内容についても、ごく簡潔に記入しておくとより安心です。
こうすることで事業関連性を証明でき、「実際には相手と打ち合わせ等を行っていなかったのではないか」と疑われるのを防げます。
支払い証明書を作成する際の注意点
支払い証明書を作成するときには、以下に注意しましょう。
- 「参考資料」をセットで保管する
- 支払い証明書の保存期間は原則7年間、法人の場合は9年間
- 「書類の紛失」では代わりに支払い証明書を証拠書類として使うことはできない
「参考資料」をセットで保管する
自社で発行する支払い証明書は、あくまでも「領収書やレシートが発行されない場合の代替方法」です。
よって、支払い証明書だけでは、「外部機関が交付した領収書に比べるとやや根拠に欠ける」と判断されるケースもあります。
支払いの証拠であることを証明し、根拠を強化するには、その支払いに関わる「参考資料」を添えて保管しましょう。
たとえばご祝儀を支払い証明書で証明したい場合は、結婚式の招待状を合わせて保管するのです。
このような参考資料を揃えておくことで、客観的に見ても「実際に支払いがあった」と判断されやすくなります。
支払い証明書の保存期間は原則7年間、法人の場合は9年間
支払い証明書は、7年間の保管義務があります。これは領収書やレシートの保存期間と同様です。
また法人であり、かつ「欠損金(赤字)の繰越」が生じた年度の支払い証明書に関しては、9年間保存する義務があります。
赤字が発生した年度分を保管していて、間違って9年経たずに捨ててしまった……ということがないようにしましょう。
「書類の紛失」では代わりに支払い証明書を証拠書類として使うことはできない
消費税の課税事業者となっている場合、仕入にかかった消費税を納めるべき消費税から差し引ける控除制度(仕入税額控除)を利用できます。
仕入税額控除を適用したい場合、帳簿や相手発行の請求書、領収書の保管が条件になっています。
このとき自動販売機のジュース購入などで領収書がなかった場合など、やむを得ない理由であれば支払い証明書でも問題ありません。
ただし、仕入税額控除を受ける予定で、かつ3万円以上の支払い書類(領収書など)を「紛失した場合」は注意が必要です。
2022年時点では、3万円以上の支払いに関して仕入税額控除をうけるとき、「相手からの確認を受けた支払い証明書類」が必須です(3万円未満は支払い証明書類の保管が省略されています)。
しかし、紛失により支払い証明書を発行した場合は、相手からの確認を受けていません。
この支払い証明書に対しては、仕入税額控除が受けられないのです。
仮に3万円以上の領収書を紛失してしまった場合は、再び発行してもらうか、仕入明細書などの書類を作成、相手方の確認を受けなくてはなりません。
なお、2023年10月1日以降は、3万円未満でも「領収書等の保存」が仕入税額控除の条件となります。
課税事業者、およびインボイス事業者になって仕入税額控除を受ける際に支払い証明書類を「紛失」してしまうと、その支払いにかかった消費税の仕入税額控除が受けられなくなってしまうので注意しましょう。
※領収書がそもそも入手できない場合は、支払い証明書の作成・参考資料の保管で問題ありません。
支払い証明書は資料と合わせて保管しよう
レシートや領収書が発行されない場合、および紛失した場合に支出を証明する「支払い証明書」。
支払い証明書を作成する際は、支払日や支払先をはじめとする必要項目を必ず盛り込みましょう。
特に、仕入税額控除を受けたい課税事業者は、必要項目が抜けていると控除が受けられないので要注意です。
また、支払い証明書を作成したあとは、支払いの事実を裏付けられる資料と合わせ、7年および9年の保管が義務付けられています。
領収書やレシートが得られないときには、ルールを把握したうえで支払い証明書を作成、活用してみてください。