IT業界やスタートアップではよく「ピッチ」が行われます。プレゼンテーションと混同されがちですが、実際には目的や性質が異なるものです。
ここでは、ビジネスでよく聞く「ピッチ」について解説。目的やメリット、種類のほか、プレゼンテーションとの違いや、上手くピッチを行うためのコツをご紹介します。
ビジネスシーンでよく聞く「ピッチ」とは?
ビジネスシーンでよく見られる「ピッチ」は、かんたんに言うと「ごく短いプレゼンテーション」のことです。
もともと英語における「Pitch」という言葉は、「的に向けて投げる」「打者に向かってピッチャーがボールを投げる」「音程」などの意味を持っています。またピッチは「製造周期」「一定間隔で繰り返し行う動作の回数、速度」という意味でも使われています。
転じてビジネスでは、「短い時間でプレゼンテーションをする」という意味で使われています。
もともとアメリカのシリコンバレーで頻繁に行われていたピッチですが、近年では日本企業(とりわけIT業界やマスコミ)でもピッチという概念が浸透していきました。
ピッチの目的は「興味を持ってもらうこと」
ピッチを行う目的は、相手に興味を持ってもらうことです。
相手の立場から考えると、まったく知らない相手の長話というのは(よほど時間に余裕がない限り)聞く価値を感じないものです。
しかし、数十秒~10分程度であればどうでしょうか。また、話しはじめに「なんだろう?」と興味をそそられる話を聞いたら、続きが気になる……と感じることもありますよね。
ピッチの真髄は、まさにその「短い時間でインパクトを与え、興味を持ってもらうこと」にあります。
興味を持った相手に対しては、「話を聞いてみよう」と思うものです。
よってピッチでは、いかに相手に興味を持ってもらえるか、また「相手が興味を持ちそうなアプローチは何か」を考えながら話す必要があるのです。
「プレゼンにつなげられる」以外のピッチを行うメリット
「短いプレゼン」であるピッチには、プレゼンテーションのチャンスを掴みやすくなるという最大のメリットがあります。
実は、それ以外にもさまざまなメリットがあります。
本題を簡潔に伝えられる能力が身に付く
ピッチではごくわずかな時間で最も伝えたいことを伝える必要があります。
そのためには、「必要な情報の取捨選択」「伝わりやすい表現で情報をシンプルに伝える」といったスキルが重要です。
ピッチを何度も行うことで、こうした“伝える力”が育っていきます。
結果、本題・結論ファーストで物事を伝えられるようになり、「何を言いたかったのか分からなくなった」といったことも防げるようになるでしょう。
コミュニケーション能力アップ
要件をごく簡潔に伝えるピッチの能力が身につくと、コミュニケーションが円滑になります。
コミュニケーションには「伝える力」と「聞く力」が必須です。このうち伝える力が不足していると、相手は何度も確認をしたり、認識の違いが生じたりする必要があります。
こうしたコミュニケーションロスは、時間やコストのロスにもつながります。
ピッチで要件を端的に伝えられる力を鍛えれば、こうしたコミュニケーションロスも生まれにくくなるでしょう。
信頼されやすくなる
要件を分かりやすく端的に伝えられる人は、周りからも信頼されやすくなります。話にメリハリがあるので周りも耳を傾けようという気になりますし、「情報をしっかり理解し、分かりやすくまとめてくれる=仕事のできる人」として見られるからです。
信頼はお金では買えない要素ですので、長期的に見ても大きなメリットだといえるでしょう。
ピッチとプレゼンテーションとの違いは?
ピッチとよく比較・混同されるのが「プレゼンテーション」です。
どちらも「説明する」という点では同じですが、両方を比較するとさまざまな違いがあります。
所要時間
ピッチは数十秒~30分以内とごく短い時間で行われます。
一方プレゼンテーションは、数十分~1時間を超えることがほとんどです。
どちらも話す内容や目的が異なるため、所要時間が変わります。
内容
ピッチでは、相手の興味を引くような自社の商品、サービス、事業計画などをアピールするケースがほとんど。ピッチによっては自分自身のスキル、経験、自社の財務状況などを説明することもあります。
資料があってもごく最小限にとどまり、あくまでも「売り込んできっかけをつかむこと」が目的となります。
一方プレゼンテーションでは、顧客目線での利益、メリットについて説明を行うケースが多いです。そこには「選んでもらう」「契約してもらう」といった目的があります。
スライドや資料を使ってじっくり、詳細に説明を行うほか、質疑応答の時間を設けることも多々あります。
話す相手
ピッチは「こちらに興味のない相手」に対し行われる場合がほとんどです。よって、どれだけ興味を引けるか、短い時間で理解してもらえる内容かが問われます。
一方プレゼンテーションは、すでに自社や自社の商品・サービスに興味を抱いている人向けに行うものです。社内プレゼンテーションであれば対象は社内(上司など)となります。ある程度こちらについて知っている相手に向けて説明をするため、前提知識や共通の専門用語を用いて話をすることも多くなります。
ピッチには種類がある
ピッチには大きく分けて4種類があります。
- エレベーターピッチ
- コンテストピッチ
- インベスターピッチ
- ツイッターピッチ
エレベーターピッチ
エレベーターピッチとは、ごく短い時間でプレゼンテーションの権利を獲得するための会話という意味です。
「エレベーターが階を移動している15~30秒くらいの間に自社ビジネスや自分をプレゼンする」という行為が言葉の由来です。
アメリカ・シリコンバレーにおいては、このエレベーターピッチが頻繁に行われています。
ただ、エレベーターピッチはあくまでも「本格的なプレゼン・会議につながるきっかけづくり」として行われるものであり、全ての意思決定をするためのものではない点に注意しましょう。
コンテストピッチ
コンテスト等のイベントにおいて、審査員に事業計画をプレゼンテーションすることを「コンテストピッチ」といいます。とりわけビジネスでは、ビジコン(ビジネスコンテスト)で審査員である投資家に自社の事業計画を説明する場合に行われます。
印象に残るコンテストピッチを行うことで、知名度の向上、出資を受けやすくなるなどの効果が期待できるでしょう。
インベスターピッチ
30分程度、投資家向けに行うピッチは「インベスターピッチ」と呼ばれます。ピッチの中でも時間的にはやや長めなため、ピッチとプレゼンテーションのちょうど中間に位置するアプローチかもしれません。
自社の財務状況、将来性を明確かつ具体的に説明することで、投資を受けやすくなります。
また、投資家の検討が進んだ時(デューデリジェンス)に行う1時間程度の「マネジメント・プレゼンテーション」もインベスターピッチと呼ばれています。
ツイッターピッチ
近年はTwitterを利用した宣伝、企業戦略がごく一般的となっています。このTwitterにおいて短い言葉で投資を募るピッチを「ツイッターピッチ」といいます。
ツイッターピッチは時間の制約こそありませんが、140文字という「文字数の制約」があります。
こうした性質からアメリカでは「Company Haiku(企業俳句)」とも言われていて、短い文字数に対する情報量、まとまりの良さが重視されているのです。
ピッチを上手く行うには?
ピッチを上手く行うには「導入」「提案」「まとめ」を意識することが重要です。
導入
導入では、「相手の困りごとや疑問を解決します」というアピールをします。
よくあるのが、「○○にお困りではないですか?」と疑問形で語り始めるピッチです。TVの通販番組やネットの広告などを思い浮かべると分かりやすいでしょう。
相手の困りごとや疑問についてストレート、かつシンプルに切り出すことで、意識を引き込んで聞く姿勢を持ってもらいやすくなります。
提案
導入部分でアピールした困りごと・疑問に対し、どうやって解決するのかを説明するのが「提案」のフェーズです。
提案のフェーズでは、相手にとってどのようなメリットが得られるのかをとことん伝えます。
その際「特徴は?」「デメリットは?」などの疑問が生まれるため、メリットを伝えたあとは疑問に思われそうな部分をできる限り細かく、かつ分かりやすく伝えましょう。
また、提案を行う際は根拠を提示することも重要です。
根拠なしにメリットを並べられても「本当かなあ」と疑念を持たれてしまいます。よって、数値・データ・実績などをもとにした根拠を提示したうえで提案を行いましょう。
また、短い時間のピッチなら「GTCメモ」を作って臨むのも有効です。
- Goal(目的)……ピッチにより、どうやってお互いがWin-Winになれるか
- Target(相手が得られること)……相手にとってのメリットは何か
- Connect(お互いの共通点)……提案と相手のニーズのどこがマッチするか
3つの要素を書き出すことで、ピッチの内容作りがラクになります。
まとめ
まとめは「クロージング」とも呼ばれますが、このフェーズでは「次にどんな行動をしてほしいか」を伝えます。
たとえばくわしいプレゼンを目的としたピッチ(エレベーターピッチ)ならば、「次回はよりくわしいお話ができれば幸いです」というふうに、簡潔にまとめます。
ピッチでビジネスチャンスを掴もう
他社へのアプローチやコンテスト、投資家への説明などではピッチで相手の心を掴むことがとりわけ重要になります。短時間のピッチだけでは伝えたい内容が伝えきれないことも多いため、あくまでも「きっかけづくり」を意識した内容を心がけましょう。
ただし、相手の心を掴みたいからといって多大な誇張をしたりウソをついたりするのはご法度です。
あくまでも真実のみで、かつ伝わりやすい表現を心がけるようにしましょう。