会社を設立する際には「商業登記」を行うことがスタートラインとなりますが、「そもそも商業登記って何のために行うもの?」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは商業登記の目的や法人登記の違いや、商業登記の流れを解説します。商業登記に必要な書類、費用についてもお伝えしているので、会社設立をお考えの方はぜひ参考にしてみてください。
そもそも商業登記をする目的とは?
商業登記(会社登記)は端的に言うと「会社として営業をするために必要な公的手続き」です。
株式会社や合同会社などの形態で事業を行うには、商業登記が必須です。
会社の名称、所在地、役員の氏名などの情報を登録し、公示することで会社としての信用を維持できます。
また他の会社との取引を安全かつスムーズに行うためにも、登記は重要な意味を持ちます。金銭のやりとりが発生する取引において、相手の会社の情報が不透明なままでは安心して取引ができません。しかし法務局に会社の情報が登録されていれば、適宜開示を行い、相手方が信用に足る会社なのかを確認することができます。
このように商業登記の目的は「会社を設立し、会社として安全かつ円滑な営業をするため」とも言い換えられるでしょう。
登記なしで会社として営業をするとどうなる?
登記なしで会社として営業をしようとした場合、法律違反になる可能性が極めて高いでしょう。
商業登記をしていないのに会社を名乗る行為は、会社法第7条において禁止されており、違反した場合は100万円以下の罰金が科せられます(会社法第978条第2号)。
また設立中の段階で会社を名乗った場合は、違反として登録免許税に相当する金額の過料が言い渡されます。
登記をしないまま会社として営業をすることはデメリットしかありませんので、注意しましょう。
登記の種類は? 商業登記と法人登記は何が違う?
登記には商業登記のほか、法人登記、不動産登記、動産譲渡登記、債権譲渡登記などさまざまな種類があります。
このうち商業登記と混同されやすいのが「法人登記」です。
「法人」というと株式会社などの営利法人(利益の分配を目的とした法人形態)を想像する方も多いでしょう。
しかし実際には「財団法人」「社団法人」「NPO法人」というふうに、営利を目的としない法人も多数あります。これら法人を設立する際は、会社と同じように法務局で登記の手続きを行います。
そのため、これら法人の設立をする際には「法人登記」を行うのです。
一方、商業登記は株式会社や合同会社などの「営利法人」を設立する際に使われる言葉です。
非営利法人と同じ「法人」ですが、設立の目的が商売による利益の獲得であるため「商業登記」と呼びます。
商業登記が「会社登記」とも呼ばれるのは、このような理由によるものです。
【まとめると】
登記の名称 | 対象になる団体 |
---|---|
法人登記 |
|
商業登記 |
|
なお、法人登記は商業登記と同じ意味合いで使われる場合もあります。
分類上は株式会社も合同会社も「法人」ですが、「商業登記」という場合は会社のこと、「法人登記」は会社以外のさまざまな法人が対象であることを押さえておくと、意味を判別しやすくなります。
商業登記の手続きの流れ
商業登記の手続きについては、次のステップで進めていきます。
- 設立方法の決定
- 定款作成、認証
- 資本金の払込み手続き
- 登記申請
それぞれくわしく見ていきましょう。
1.設立方法の決定
商業登記をする際は、設立方法を決めなくてはなりません。
会社の設立方法には「発起設立」「募集設立」があります。
発起設立
発起人が発行株式の全部を引き受ける設立方法。
募集設立
発起人が発行株式の一部を引き受けたのち、引受人を募集して残りの株式を引き受けてもらう設立方法。
「少人数で会社を設立したい」という場合は発起設立のほうがスピーディ、かつ簡単に登記ができます。
2.定款作成、認証
定款とは、会社のルールブックともいえる書類です。会社設立時には定款を作成する必要があります。
定款には「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」を記します。
絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、定款に必ず記載すべき5つの項目です。
- 事業目的(会社でどんな事業を行うのか)
- 商号(会社名)
- 本社所在地(会社の住所)
- 資本金(出資した財産の金額)
- 発起人氏名、住所
「事業目的」では会社としてどんな事業を行うのかを記載します。事業目的を明記しないままだと、第三者から見れば「何の会社なの?」と実態が不透明なままです。
よって、事業目的で何をするのかを明記し、取引を安定させることが重要になります。
さらに、絶対的記載事項としては会社の名称である「商号」、本社の所在地、資本金、発起人の氏名・住所を記載します。
なお会社設立において、資本金は1円からでも登記可能です。しかし、低すぎると後に銀行融資や創業融資の申請で不利になる可能性があります。
かといって資本金額が1,000万円を超えると、初年度から消費税の納税義務が発生する点には注意しましょう(1,000万円未満の場合は設立から2年まで免税事業者となり、消費税の納付が免除されます)。
資本金額の平均は300万円ともいわれていますので、同業の事業者などを参考にしつつ決定しましょう。
相対的記載事項
相対的記載事項には、記載することでその事項の効力が認められる事項を記します。
相対的記載事項の最たる例が「株券を発行する旨の定め」です。
株式会社は株券を発行するか、しないかを選択できます。株式を発行したい場合は、相対的記載事項に「株券を発行する」という旨を記載することで発行ができるようになります。
また「株式の譲渡制限」を相対的記載事項として記載することで、見知らぬ第三者によって株式を大量に譲渡され、勝手に会社の経営権を握られてしまう……といったことも防げます。
【相対的記載事項】
- 変態設立事項(会28)
- 設立時取締役及び取締役選任についての累積投票廃除(会89条、342条)
- 株主名簿管理人(会123条)
- 譲渡制限株式の指定買取人の指定を株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)以外の者の権限とする定め(会140条5項)
- 相続人等に対する売渡請求(会174条)
- 単元株式数(会188条1項)
- 株券発行(会214条)
- 株主総会、取締役会及び監査役会招集通知期間短縮(会299条1項、368条1項、376条2項、392条1項)
- 取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人及び委員会の設置(会326条2項)
- 取締役、会計参与、監査役、執行役及び会計監査人の責任免除(会426条)
- 社外取締役、会計参与、社外監査役及び会計監査人の責任限定契約(会427条)
- 取締役会設置会社における中間配当の定め(会454条5項)
参考:日本公証人連合会
任意的記載事項
任意的記載事項とは、先述の絶対的記載事項、相対的記載事項に当てはまらない事項です。
- 株主総会の開催についての規定
- 配当金に関する事項
- 役員報酬(金額や支払い方法など)に関する事項
任意的記載事項は定款への記載がなくとも、別の書面に記載していれば効力が生じる事項です。
「定款に書いても、書かなくてもどちらでもいい事項」とも言い換えられるでしょう。
よって定款への記載が必須ではありませんが、定款内に含めることで後から確認しやすくなります。
定款の認証
商業登記において、株式会社を設立する場合は「定款の認証」が必要です。
定款の認証は公証役場で行います。公証人に定款を提出し、「発起人全員が同意し、作成した定款であること」を公的に証明することで、商業登記ができるようになります。
定款の認証を済ませたあとは、認証済みの定款をもとに商業登記を行います。
なお、合同会社・合名会社・合資会社の場合は、定款の認証が不要です。これらの会社形態の場合は、定款の提出のみを行います。
3.資本金の払込み手続き
商業登記の手続きをする前には資本金(出資金)の払込をします。
登記前は法人の銀行口座を作れませんので、発起人が個人口座を使って資本金を払い込みます。
発起人の個人口座へ資本金を振り込み、通帳のコピーを取って「払込があったことを証する書面」を作成しましょう。
払込があったことを証する書面は登記申請で必要になりますので、大切に保管しておきましょう。
4.登記申請
定款の認証、資本金の払い込みが終わったら、いよいよ登記申請です。
登記申請は法務局で行います。直接窓口で手続きするほか、郵送やオンラインでも申請可能です。
オンラインの場合は事前登録やソフトウェアのダウンロードが必要になりますので、あらかじめ準備しておきましょう。
参考リンク:登記・供託オンライン申請システム 登記ねっと 供託ねっと
なお、商業登記の手続きをした日が「会社設立日」となるため、設立日にこだわりたい人(何らかの記念日や吉日など)はそちらも考慮して登記手続きを行いましょう。
商業登記申請に必要な書類は?
最後に、商業登記申請に必要な書類についてお伝えします。
- 設立登記申請書(株式会社、合同会社それぞれの様式あり)
- 登録免許税納付用台紙(A4たて向きの白紙でOK)
- 定款
- 印鑑届出書
- 就任承諾書(代表取締役、取締役、監査役)
- 役員の印鑑証明書
- 資本金の払い込みを証する書面
なお、商業登記にはさまざまな費用が必要です。
- 定款の認証手数料……30,000~50,000円
- 定款認証の収入印紙代(紙定款の場合)……40,000円
- 登記時の登録免許税……150,000円~
※募集設立の場合は約25,000円の払込保管証明書費用が必要です。
必要書類や費用を確実に準備しておき、スムーズな商業登記を目指しましょう。