製造業や小売・卸売業、飲食業などを行う会社では、「原価率」が特に重視されます。原価率は低いほど利益を得やすくなりますが、そもそもどのように計算すれば算出できるのでしょうか?
ここでは「原価率」の意味や計算方法を解説します。また原価率の重要性や、原価率を下げるポイントについてもご紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
原価率とはなに?まずは意味を知ろう
原価率とは、「売上高の総額のうち原価がいくらぐらいの割合か」をパーセンテージで表したものです。
そもそも原価とは「売上を得るために直接かかったお金」のことです。
材料費はもちろんのこと、製造にかかった人件費や光熱費、外注費といったお金も「原価」に含まれます。
飲食店の場合は、「料理やサービスを提供するためにかかったお金」が原価であり、その原価が売上のうちどれくらいの割合を占めているかが「原価率」です。
なお、商品の認知を高めるための「広告宣伝費」や、商品を運ぶための「運送費」については、販売費にあたります。
原価率を下げて利益率を上げることが大事
製造業や小売業、卸売業、飲食業などの業種では、原価率を下げることが利益につながります。
原価率が高い場合、いくら売上を上げても利益はそこまで伸びません。
かかったお金が多くなれば、手元に残るお金が少なくなるのは当然のことです。
しかし売上が同じ額でも、原価率が低ければ「利益」は大きくなります。
同じ500円の商品でも、作るのにかかったお金が100円と300円の商品では、当然前者のほうが大きな利益を得られるでしょう。
会社が利益を上げるには「価格を上げる」「販売数を増やす」といった方法だけでなく、「原価率を下げる」という手段もあることを知っておきましょう。
ただし、原価率を下げすぎるのも考え物です。
原価を下げていくということは、商品・サービスの劣化、クオリティダウンにつながる恐れがあるからです。
あくまでも適正レベルを意識しつつ、できる範囲で原価率ダウンを目指すのが得策でしょう。
原価率の計算方法は?業界別の目安についても紹介
ここからは、原価率の計算方法や業界別の目安について解説します。また、飲食業では食材費に加え「FLコスト」も加味したうえで原価率について考える必要があるため、合わせて把握しておきましょう。
原価率の計算方法
原価率の計算方法は以下のとおりです。
【原価率の計算式】
売上原価 ÷ 売上高 ×100 = 原価率
売上原価とは、売上を上げるためにかかった原価のことです。
売上原価は以下の計算式によって求められます。
【売上原価の計算式】
仕入高 + 期首(商品)棚卸高 - 期末(商品)棚卸高 = 売上原価
なお、製造業の場合は材料費などの細かな集計が必要になるため、計算は少し複雑になります。
仮に飲食店の当期売上高が2,000万円、食材の仕入れ高が1,000万円、
期首の食材棚卸高30万円、期末の食材棚卸高が40万円だった場合、以下のような計算で原価率が求められます。
1,000万 + 30万 - 40万 =990万円(売上原価)
②原価率を計算する
990万 ÷ 2,000万 ×100 =49.5%(原価率)
棚卸の際や在庫商品の価値低下による処理
また、棚卸で実際の在庫とデータにズレがある場合の処理(棚卸減耗)や、在庫商品の価値が低下した場合の価格の変更(商品評価損)も考慮する必要があります。
それぞれ以下のような対応をするとよいでしょう。
- 棚卸減耗……原価性がある場合は「売上原価」に含める、または「販売費および一般管理費」に計上する
- 商品評価損……特別損失(災害など)でない限り、「売上原価の計算」にプラスする
業界別の原価率相場
2020年の主要産業における原価率は80.5%となっています。
ただし、原価率は業種・業界によってさまざまです。
- 飲食業……44.1%
- 製造業……80.8%
- 卸売業……87.6%
- 小売業……71.2%
参考リンク:
2021年経済産業省企業活動基本調査(2020年度実績/PDF)
商工業実態基本調査|経済産業省
飲食業の場合は「FLコスト」についても要確認
飲食業はほかの業種に比べて原価率が低いのが特徴ですが、イコール「儲かりやすい」というわけではありません。飲食業の場合は「FLコスト」を考慮したうえで利益について考える必要があります。
FLコストとは、「Food(食材費)」と「Labor(人件費)」の合計コストを指します。
飲食業は作業の自動化などが難しいため、コストの中でも人件費の比率が高くなります。そのため、食材費だけでなく“売上高のうちFLコストがいくらをかかるのか”を把握しておかねばならないのです。
このように人件費などを考慮する必要があるため、飲食業の食材費については売上高の30%前後が目安とされています。
原価率を下げるためのポイントは?
飲食業や製造業、小売業などの事業を成功させるには「原価率ダウン」と「利益率アップ」を両立させることが重要です。
利益率を上げて原価率を下げるには、「商品やサービスの製造、仕入にかかる原価そのものを抑えること」が何よりも大切だといえます。
また、すでに販売している商品については価格を値上げしたり、そもそも原価率が低い商品を重点的に売り出したりするなどの施策を行うとよいでしょう。
ここでは、原価率を下げるための5つの方法をご紹介します。
在庫状況の見直し
原価率を下げるための第一歩としては、棚卸で「在庫状況」を確認することが重要です。
- 余剰在庫の確認をする
- 使用期限や賞味期限のあるものをチェックし、優先的に使用・販売する計画を立てる
何が多くて何が足りていないかを正確に把握できるようになれば、「在庫がたくさんあるのに発注してしまった」「使いきれずロスとして廃棄することになった」といったムダを防げます。
これにより、適切な在庫管理ができるようになり、原価率を下げることができるでしょう。
ロスの削減、歩留まりの改善へ取り組む
仕入れた原材料や商品などの「ロス」が増えると、原価率も上がります。
ロスには食材や原材料の“期限切れ”“劣化”のほか、製造や調理等で起きたミスが不良品を出してしまい、ロスになるケースも多いです。
これらは在庫管理や製造・作業フロー、オペレーションの見直しによって改善できます。
また、製造業や飲食業などには「歩留まり」という概念もあります。
歩留まりは「使った材料に対し得られる生産量」「可食部分の割合」といった意味がありますが、歩留まりが高いほど「利益が生まれる」ということでもあります。
こちらも、材料をムダなく活かせる方法を考え出したり、業務フローの見直しなどを行ったりすることをおすすめします。
仕入先の見直し、再検討
原価率が上がる原因のひとつに「仕入価格」が挙げられます。仕入れ価格が安くなれば、当然原価率も下がります。
- 大量に使うものは仕入れ先を絞り、大量発注して単価を下げられないか交渉する
- 仕入れ先を分散し、仕入価格を平均化して高騰のリスクを下げる
- より安く仕入れられる“新たな仕入れ先”を開拓する
これらのうちどの方法が合っているかは、事業の状況、内容、業種などによっても異なります。
事業にとって最善の方法を考えてみましょう。
前年データを参考に仕入れ量を適正化する
仕入れ量を決める際は、ぜひデータを活用しましょう。
「大体このくらい必要だから」という感覚的な決め方をしてしまうと、余った仕入れ品が長期保管で劣化したり、ロスになったりする可能性が高いです。
シーズンごとに売り上げの増減がある商品などは、特にその傾向が強いでしょう。
- 前年の天候、気温
- 顧客の年齢層
- 主力となっていた商品
- 合わせ売りが成功した商品
- その他、ニーズが高かった商品など
これらをチェックしたうえで仕入れ量をコントロールします。
大量に発注して余りそうなら、小ロットで都度仕入を行うのも一つの方法です。
販売価格の改定
原価率が上昇する時の理由としては「原材料価格の高騰」も考えられます。
原材料の値段が上がっているのに販売価格を据え置きのままにしていた場合、当然利益は少なくなりますし、原価率はアップします。
そのため、原材料価格の高騰が起こった場合は、販売価格の見直しも検討すべきです。
- 利益を仕入れ原価に上乗せした価格に設定する(マークアップ法)
- リーダー企業の価格に合わせて改定する(プライスリーダー追随法)
なお、市場価格と大きく離れた価格にしてしまうと、とたんに売れなくなるため注意が必要です。
「顧客がいくらならお金を出して購入してくれるのか」をシビアに考えたうえで、価格改定を行いましょう。
原価率が低い商品をプッシュし、利益につなげる
もともと原価率の低い商品があるなら、それをプッシュして販売数を増やせば利益を得やすくなります。
また、「原価率の低い商品と高い商品を抱き合わせで販売する」という方法も考えられるでしょう。
工夫次第では、大きな利益を上げることもできるので、ぜひ検討してみてください。
原価率とは売上に対する原価の割合!なるべく減らす努力を
売上高に対する原価の割合を示す「原価率」は、低くなるほど利益を得やすくなるメリットがあります。
ただし、やみくもに原価を下げるのはあまりおすすめしません。商品やサービスの品質低下につながる可能性があるうえ、顧客離れにつながる場合もあるからです。
このような悪影響を避けるには、自社の属する業種でどれくらいの原価率が適性なのかを知ることが重要。
そのうえで、どれくらい原価率を下げればいいのか、そのためにはどんな施策を講じるべきかを考えてみましょう。