会社の経営状況は、会計書類の「貸借対照表」に表れます。その構成項目のうち、会社の実質的な資本となるのが「純資産」です。
ここでは純資産の概要や「総資産」との違い、純資産の種類(内訳)について解説します。また、純資産や総資産などを用いた財政状況の分析方法もご紹介します。
自社や他社の財政状況の判断に役立つ知識を、さっそくチェックしてみましょう。
純資産とは「返済義務のない資産」のこと
純資産(自己資本)とは、返済義務がない企業の純粋な財産を指し、「正味財産」とも呼ばれます。
会計書類の「貸借対照表」に表示される項目のひとつで、貸借対照表では右側、負債の下側に記載されています。
会社の財政状態を把握したいとき、貸借対照表の「総資産」「負債」「純資産」の3つのバランスを見ることで分析できます。
貸借対照表を構成する3つの要素
②返済義務のある資産(負債)
③返済義務のない、会社の資産(純資産)
総資産の内訳は「負債+純資産」となっています。
仮に純資産よりも負債の割合が大きいと「経営リスクが生じている」とみられます。
このような場合、金融機関で融資を受けるときに「返済能力がない」と判断され、審査に通らなくなる可能性があります。
反対に、総資産のうち純資産の割合が多いと「経営が安定している」とみなされます。
創業したてで負債がないと総資産=純資産(自己資本)になる
ただし、創業したてで負債がない会社の場合、純資産となる資本金=総資産となる点には要注意です。
実際に営業力があるかどうかを判断するには、総合的なデータを確認する必要があると心得ておきましょう。
間違えがちな「純資産」と「総資産」の違いとは?
貸借対照表では、純資産のほかに「総資産」があるとお伝えしました。
改めてご説明すると、純資産とは「負債を含まない(返済の必要がない)会社の保有財産」のことです。
貸借対照表では右側に表示されます。
一方総資産は「負債を含む資産の合計」を指し、「総資本」とも呼ばれます。
貸借対照表では左側に表示されており、「負債+純資産」の金額と一致します。
総資産には大きく分けて「流動資産」「固定資産」「繰延資産」の3つがあるので、覚えておきましょう。
流動資産
流動資産は1年以内に現金化できる資産のことです。
- 現金や預金
- 差益などを得るために保有している有価証券
- 営業活動で生じる売掛金、受取手形、商品や原材料などの棚卸資産 など
固定資産
会社が事業のために1年以上保有する資産を「固定資産」といいます。
- 事業用の土地、建物、機械、車両、工具など(有形固定資産)
- 知的財産権や所有権などの権利(無形固定資産)
- 長期保有を目的とした投資有価証券
繰延資産
会社の費用のうち、支出効果が1年を超えて及ぶ資産については「繰延資産」としてカウントされます。
- 会社の創立費
- 開業費
- 新株交付費
- 社債発行費
- 開発費
純資産の種類(内訳)とは?
貸借対照表における純資産の主な種類(内訳)は「株主資本」と「株主資本以外」に分かれています。
株主資本
株主資本とは、会社設立・増資をする際に株主から受けた「資本」や、配当に回さず企業内で蓄えられている利益を指します。
株主資本は以下の4つで構成されています。
- 資本金
- 資本剰余金
- 利益剰余金
- 自己株式
資本金
会社設立時に必要な「資本金」についても、純資産に含まれます。
資本金は、経営者の出資した資本や、事業運営のために株式を発行し、集めた資金のことを指します。
資本金は会社の売上や業績等によって変わるものではなく、あくまでも変わらない財産として保有するものです。
また株主への配当原資に利用されることもありません。
ただし、会社設立時に準備した資本金を全額計上する必要はなく、資本金の2分の1を超えない金額については「資本準備金」として計上することもできます。
実際に、資本金額による税制の優遇措置を受けたい場合などには、金額の一部を資本準備金に計上するケースがあります。また資本準備金は損失や将来発生する多額の支出のための“予備費”として扱われるケースが多いです。
資本剰余金
資本剰余金とは、「資本取引」で集めた資金のうち、実際には資本金として計上していない資産を指します。
【資本剰余金の構成】
- 資本準備金(資本金に含まない会社の資本)
- その他資本剰余(増資、減資/自社株式の取得/株式交換・移転差益/固定資産評価差益/保険差益など)
なお、その他資本剰余については株主へ分配する配当の原資として認められています。
利益剰余金
会社が事業で獲得した利益(お金)を積み立てたものを「利益剰余金」といいます。
いわゆる「内部留保」のことです。
資本剰余金と似ていますが、利益剰余金は「事業で得たお金」という違いがあります。
また以下の2つで構成されているのが特徴です。
- 利益準備金
- その他利益剰余金
これらの利益剰余金が増えた場合、純資産が増加し経営も良好になります。一方、売上の減少などで利益剰余金が減ると、経営状況の悪化が懸念されます。
利益準備金
利益準備金は、事業の利益のうち「積み立て」が義務になっている資本です。
配当前の利益準備金が資本金の4分の1未満の場合、「利益準備金+資本準備金」の合計額が資本金額の4分の1に達するまで、配当原資の10分の1を準備金として積み立てなければなりません。
順当に積み立てていき、利益準備金と資本準備金が資本金額の4分の1を超えた場合は、超えた部分の利益準備金を「利益剰余金」として計上します。
その他利益剰余金
事業で得た利益のうち、利益準備金に含まれない資本を「その他利益剰余金」といいます。
- 任意積立金……会社として“自主的に”積み立てた資金のこと。
- 繰越利益剰余金……前期の決算で未処理の繰越利益、および積立金から取り崩した額を加算した資産。
株主資本以外
株主資本以外の純資産には以下のような種類があります。
自己株式
自己株式とは、会社が株主から買い取りをした自社株式の金額を指します。
実質的には株式の発行数が減ることになるため、貸借対照表上はマイナス(控除)として表示します。
新株予約権
会社がこれから発行する株式を購入する権利を「新株予約権」といいます。
ストックオプションも新株予約権に含まれます。
こちらも会社の純資産のひとつで、株主資本には含まれず、分類的には「株主資本以外」に含まれます。
評価・換算差額等
純資産のうち、資産や負債、株主資本のどれにも含まれていない項目が「評価・換算差額等」です。
長期保有を目的とした投資有価証券・土地などの評価損益や、繰延ヘッジ損益などが含まれます。
純資産から財政状況を分析する方法は?
貸借対照表の純資産、および総資産を利用した計算式をつかうと、会社の財政状況を把握できます。
さまざまな分析方法がありますが、代表的なものとして以下の3点を押さえておきましょう。
- 自己資本比率
- 自己資本利益率(ROE)
- 固定比率
自己資本比率
自己資本比率とは、総資産に対し自己資本(純資産)がどのくらいの割合で含まれているかを表す割合です。
自己資本(純資産)÷ 総資産 × 100 = 自己資本比率(%)
一般的な自己資本比率の目安は30%以上とされています。
自己資本比率のパーセンテージが高いほど“借入等の割合が少なく自力で資金調達をしている”という証になり、倒産リスクが低い状態といえます。
自己資本利益率(ROE)
自己資本のうち、当期純利益(税引き後の最終的に残った利益)がどれくらい占めているかを表すのが「自己資本利益率(ROE)」です。
当期純利益 ÷ 純資産 × 100 = 自己資本利益率(%)
自己資本利益率は“企業が収益を上げる力や成長力”に比例して高くなります。
一般的には10%が目安で、15%を超えれば優秀な実力を持つ企業といってよいでしょう。
固定比率
固定比率とは、会社が保有している固定資産の購入費のうち、自己資本(純資産)でまかなった割合がどのくらいかを表すものです。
固定資産 ÷ 純資産 × 100 = 固定比率(%)
固定資産を購入・リースする際に借入をしていると、返済が必要になります。
しかし、純資産をつかって取得している割合が多い場合、「負債が少ない=資金繰りリスクが少ない」と判断できるのです。
純資産とは何かを理解し、経営に役立てよう!
負債などを含まない会社の純資産は、自己資本比率が多くなるほど「安定している会社」とみなされます。
ただし、すべて自己資金で経営を行うことはかなり難しく、実際には他人資本(負債)を活用しながら業績を伸ばしていくことが重要だといえるでしょう。
また、純資産からは会社の経営状態が判断できます。
自社はもちろんのこと、他企業の経営状態などを判断する基準として活用してみましょう。