法人企業は従業員の給与から所得税を源泉徴収し、毎月納付する決まりです。会社員として働いた経験があれば「天引きされるもの」というイメージを持っている方も多いでしょう。
ただ、そもそもどのように計算されるもので、どのお金に対して計算し、納付しなくてはならないのでしょうか?
今回は、源泉徴収の概要や計算方法をご紹介します。納税の流れについても解説するので、これから会社を立ち上げたい方はぜひご覧ください。
源泉徴収とは企業が「所得税」を先に差し引いて納付すること
源泉徴収とは、企業があらかじめ従業員の給与等にかかる「所得税」を計算し、天引きする形で徴収することを指します。源泉徴収した所得税は毎月税務署へ納付します。
日本では働いて得たお金に対し「所得税」がかかります。この所得税は、個人事業主などの場合は自身で確定申告をし、決定されます。
一方会社員など雇用されて働く人は、特別な理由がない限り確定申告をしなくとも所得税を納めています。
これは、毎月の給与から所得税が「源泉徴収」されているためです。
ちなみに、源泉徴収には「所得税」に加え「復興特別所得税」が含まれています。
復興特別所得税は所得税の2.1%相当で、震災の復興財源として徴収されている税金です。
平成25年にスタートし、令和19年(2037年)の12月末まで納付が義務付けられています。
源泉徴収の計算方法は?
なお、源泉徴収は給与、賞与のほか、退職金、支払報酬、支払配当金で行う必要があります。
それぞれの計算方法を見ていきましょう。
1.給与に対する源泉徴収税額の計算方法
給与に対する源泉徴収税額の計算は、まず月給か日給かによって異なります。
月給払いの場合は給与所得の源泉徴収税額表(月額表)を、日給払いの場合は給与所得の源泉徴収税額表(日額表)を参照しましょう。
【参考リンク|国税庁公式ホームページより】
給与所得の源泉徴収税額表(月額表)
給与所得の源泉徴収税額表(日額表)
こちらの表では
- 一ヵ所からのみ給与をもらっている人は「甲」、二ヵ所以上から給与をもらっている人は「乙」欄
- 扶養親族等の数
- 社会保険料など課税対象にならないお金を控除したあとの給与支給額
を見ると、ひと月(1日)の源泉徴収税額が早見できるようになっています。
2.賞与に対する源泉徴収税額の計算方法
賞与の源泉徴収税額の計算も、給与と同じく速算表を使うとよいでしょう。
参考リンク:賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表
計算方法は給与のときと同じで、「総額-社会保険料などの控除」をして源泉徴収前の支給額を算出し、表に当てはめます。このとき左を見ると、「源泉徴収税率(賞与の金額に乗ずべき率)」がわかります。
賞与の場合は「算出率」がわかるだけですので、ここから源泉徴収前の支給額×所定の率(%)をかけた金額が源泉徴収額となります。
仮に独身で扶養親族0人、控除後の賞与額が450,000であった場合は、
450,000円×16.336%(算出率の表より)=73,512円
源泉徴収額は73,512円となり、450,000円-73,512円=376,488円が実際の支給賞与額となります。
賞与にかかる税金については、こちらのコラムも参考にしてみてください。
https://virtualoffice-resonance.jp/column/income-tax/
3.退職金に対する源泉徴収税額の計算方法
いわゆる退職金(退職所得)についても、源泉徴収の対象となります。
退職金は勤続年数、退職理由によって控除額が変わる点と、勤続年数が1日でもあると「1年」とカウントする点に注意しましょう。
(40年と1日働いたあと退職した場合は、41年で計算するという意味です)
退職金の源泉徴収税額を知るには、
①退職所得控除額
②課税退職所得金額
の2つを計算しなければなりません。また、課税退職所得金額には
③退職所得の源泉徴収金額の速算表
をつかって源泉徴収税額を計算します。
①退職所得控除額を計算する方法
退職所得控除とは、退職金から控除される金額のことをいいます。
控除額は勤続年数(20年以下か20年を超えるか)で変わり、それぞれ次の計算で求められます。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年) |
引用リンク:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁
仮に勤続30年だった場合、800万円+70万円×(30-20)=1,500万円となり、退職金の支給額から1,500万円が引かれる、というわけです。
②課税退職所得金額を計算する方法
課税退職所得とは、文字通り税金がかかる退職金のことです。
一般退職手当の場合は以下の計算式で求められます。
(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1 / 2 = 課税退職所得金額
仮に退職金2,000万円、勤続30年だった場合は、
(2,000万円-1,500万円)× 1 / 2 =250万円
この250万円に、所得税率をかけて計算します。
参考リンク:課税退職所得金額の算式の表|国税庁
③退職所得の源泉徴収金額の速算表
所得税率は「課税退職所得金額」によって異なりますので、以下の「退職所得の源泉徴収金額の速算表」で確認します。
引用元:退職所得の源泉徴収税額の速算表|国税庁
②で出した例でご説明すると、課税退職所得金額は250万円だったため、
(250万円 × 10% - 97,500円)= 152,500円
152,500円 × 102.1% = 155,702円
つまり、155,702円が源泉徴収税額となります。
参考リンク:退職所得の源泉徴収税額の求め方|国税庁
4.支払報酬に対する源泉徴収税額の計算方法
原稿料や講演料、出演料などで支払った「報酬」にも、源泉徴収が必要なものがあります。
- 原稿料や講演料など
- 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- プロスポーツ選手やモデル、外交員などに支払う報酬・料金(一時的に支払う契約金を含む)
- 芸能関連の出演等の報酬・料金、芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
- バンケットホステス・コンパニオンやホステスなどに支払う報酬・料金
- 広告宣伝のための賞金、馬主に支払う競馬の賞金 など
引用元:No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは|国税庁
源泉徴収税額、および税率は支払額によって変わります。
①100万円を超えない部分……支払金額×10.21%=源泉徴収税額
②100万円を超えた部分……支払金額×20.42%=源泉徴収税額
仮に120万円の報酬を支払う場合は、100万円までの部分、100万円を超えた部分に対しそれぞれの税率をかけて計算し、後から合算します。
①100万円×10.21%=102,100円
②20万円×20.42%=40,840円
よって①+②=142,940円 が源泉徴収額となります。
5.支払配当金に対する源泉徴収税額の計算方法
配当金を株主へ支払うとき、所定の源泉徴収を行います。
源泉徴収税率は以下のとおりです。
- 上場株式……15.315%
- 非上場、および大口株主(※)……20.42%
※発行済み株式総数の3%以上の株数、又は金額の株式を所有している個人
支払う配当金に上記税率をかけた額が源泉徴収税額になります。
源泉徴収と年末調整は違う?
源泉徴収と年末調整は異なるものですが、会社の経理、労務においては密接な関係があります。
そもそも源泉徴収とは「従業員や業務委託をしている相手が支払うべき所得税を先に計算、差し引くこと」を指します。源泉徴収は毎月、または案件ごとに行われるものであり、計算した所得税額はあくまでも「暫定」の額です。
ただ、年間を通じて見ると源泉徴収しすぎていたり、反対に足りなかったりすることがあります。
そこには計算間違いだけでなく、扶養家族が変化したことによる「扶養控除額」の増減などの要因が含まれている場合もあるでしょう。
こうして従業員が支払うべき1年間の所得税額を正しく計算し、まとめて調整をするのが「年末調整」です。
源泉徴収しすぎていたことが分かった場合は従業員へ還付されるほか、足りなかった場合は差額の納付通知が届くことになります。
源泉徴収から納税までの流れは?
原則として、企業ではその月に源泉徴収した所得税・復興特別所得税は、次の月の10日までに納付しなければなりません。
直接金融機関、または税務署へ納付するか、e-taxで納付するかといった方法がありますので、忘れないようにしましょう。
【源泉徴収の流れ】
- 必要書類(給与所得者の扶養控除等(異動)申告書など)の準備
- 「源泉徴収税額表」に基づいて所得税額を算出、源泉徴収後の給与額を決定
- 源泉徴収した所得税、復興特別所得税を翌月10日までに税務署に納付する
「源泉徴収税額表」は国税庁の公式ページでも確認できます。
参考リンク:令和4年分 源泉徴収税額表|国税庁
ちなみに、給与を支給している従業員が常時10人未満の事業者は、「源泉所得税の納期の特例」という制度が利用できます。これは源泉徴収した税を毎月納付するところを、7月と翌年1月の年2回でまとめて納付できるという制度です。
源泉所得税の納期の特例を利用するには、事前に税務署へ「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」という書類の提出が必要です。小規模事業者の場合は申し込んでおき、経理の負担減につなげるのもおすすめです。
参考リンク:[手続名]源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請 – 国税庁
源泉徴収について理解を深めよう
起業して雇用が生まれれば、源泉徴収をした税金を納付する義務も生じます。
また雇用をしなくとも、外注ライターにWebコンテンツを作ってもらったり、弁護士・公認会計士に業務を依頼したりといってケースでは、源泉徴収をする必要があります。
これから起業される方は、源泉徴収の制度や仕組み、計算方法を必ず理解しておき、ミスが無いように対応できる体制を作っておきましょう。