あらたに起業して法人を設立する方や、個人事業主から法人成りする方が、最初に行うことが、法人口座の開設です。
法人の経営は代表者の一般口座で取引を行っても法的には問題ないため、法人口座は事業を行う上で必ずしも必須ではありません。
しかし、代表者個人名義の口座で法人を経営すると、さまざまなデメリットが発生します。法人を設立するのであれば、将来的な展開を考慮して法人口座を開設するべきです。
そこで今回は、一般口座とは異なり開設の難易度が高い法人口座の開設方法や、一般口座との違いについて解説します。
法人口座とは
法人口座とは、会社名が口座名義となっている口座のことです。よく給与振込などで、通帳が以下のような表記となっていることを見たことがあるのではないでしょうか。
一般口座でも事業運営は行えますが、本格的に法人として事業を行うのであれば、法人口座を開設するべきと言えます。理由としては法人が法人口座を持つことは、社会的な信用にも繋がるためです。
会社名義の法人口座を持つことにより取引先からの信用が高まり、取引の幅も広がるため、事業をスムーズに展開することができます。逆に一般口座であると、取引を断られたり、信用度が低く評価されたりするケースがあります。
また、法律上は代表者であったとしても会社と個人は別の名義となるため、法人口座を持つことは、会社と個人の関係を明確に区別することに繋がります。取引先や税務署から不要な疑いを持たれないためにも、法人設立後は法人口座の開設が必須です。
一般口座との違い
ここでは、法人口座と一般口座の違いについて解説します。法人口座と一般口座では、名義が異なること以外にも、審査基準や社会的信用度などに違いがあります。
名義が異なる
法人口座と一般口座は、名義が法人であるか個人であるかが、最も大きな違いです。法人名義の口座は、株式会社だけではなく、合同会社などでも開設することができます。
審査の基準が異なる
法人口座は社会的信用を発揮できるため、悪用されるケースがあります。そのため審査の基準が一般口座よりも厳しく、また審査に要する期間も長くなります。
社会的信用が異なる
事業取引という目的においては、法人口座だけではなく一般口座も利用することはできます。しかし、法人名義であるか否かという点と審査を通過して口座を開設できたという事実から、社会的な信用度が大きく異なります。
会社の資産と個人の資産を区別できる
法律上、会社と代表者は別の人格とされています。法人設立後も個人口座で事業を行うことは違法ではありませんが、会社の資産と個人の資産を混同している印象を与えてしまいます。
法人口座の開設に必要なもの
法人口座の開設には社会的信用が必要であるため、一般口座よりも多くの準備物が必要となります。必要なものは口座を開設する金融機関によって異なりますが、基本となるものは以下の通りです。
- 履歴事項全部証明書
- 会社実印
- 代表者の本人確認書類
- 代表者の実印
- 代表者の印鑑証明書
また、法人開設の審査が上記だけでは不足する場合、追加でいくつかの書類の提出を求められることがあります。金融機関が追加で求める可能性があるものは、以下の通りです。
- 事業計画書
- 会社の定款
- オフィスや事業所の賃貸契約書
- 会社案内やホームページのURL
- 法人設立届出書の控え など
会社が行っている事業の実在を確認できる証明書類が、求められる傾向にあります。金融機関に提出を求められても慌てないために、いつでも提出できる状態にしておくことが重要です。
法人口座を開設する際の流れ
ここでは、法人口座を開設する場合の一連の手順について解説します。法人口座の開設は手続きが煩雑で時間もかかるため、法人設立後は今後の取引に備えて、早めに口座を開設しておきましょう。
- 必要書類の準備
- 法人口座の申請
- 審査
- 口座開設の完了
法人口座の開設には、一般口座の開設よりも厳しい基準が設けられているため、数多くの書類が必要です。まずは、抜け漏れがないように必要書類を一通り揃えることから始めます。
必要書類を揃えた後は、銀行に赴いて口座開設の申請を行います。代表者が自ら申込へ赴くことが求められます。
申請時には、法人口座の主な利用目的や開設の理由などを細かく聞かれます。事業内容や今後の展望なども含めて、明確に回答できるようにあらかじめ準備しておきましょう。
提出した書類や口座申請時の面談内容を基に、法人口座の開設の可否を銀行が審査します。審査期間の目安は2週間~1ヶ月程度と時間がかかるため、余裕を持って1ヶ月程度と長めに見積もっておくと良いでしょう。
審査に通過して口座開設が完了すると、銀行から登録完了通知と法人用キャッシュカードが届きます。
法人口座の開設審査で確認される項目
ここでは、法人口座の開設で代表者が金融機関に赴いた際に確認される項目を解説します。金融機関からの質問に対して、明確に答えることができないと審査を通過できない場合もあるため、以下の項目を確認して事前に対策を行っておきましょう。
事務所の所在地
事業の実態、会社の実在を確認するために、会社事務所の所在地を確認されます。口頭での住所確認だけではなく、存在を証明するための賃貸契約書の提示を求められる場合があります。
事業目的
事業に取り組む意思があるかどうか、また社会的に問題のない事業であるかどうかを確認するために、事業目的の説明を求められます。
事業計画書の提示だけではなく、代表者自らが具体的に事業目的や業務内容を説明できることが重要です。審査の重要な判断基準となるため、心して準備しておきましょう。
資本金
資本金の額は、会社の信用度を評価する上で重要な項目です。法律上は1円からでも会社設立は可能ですが、事業の初期費用や運転資金を考慮した現実的な金額を設定しておくことが重要となります。
資本金の金額があまりに低い場合は信用低下に繋がり、法人口座の開設を断られる場合があるため、注意しておきましょう。
固定電話の有無
小規模の会社では、固定電話の必要性を感じられない場合があります。
しかし、固定電話の有無は会社の実在と、社会的な信用度を評価する上での重要な要素です。審査の通過確率を上げるために、できるだけ固定電話を設置しておきましょう。
創業者の経歴
法人口座の開設にあたって、金融機関は反社会的勢力との繋がりを特に警戒しています。創業者の経歴や人となりは設立する会社の信用にも関係するため、口座開設の可否を判断する基準として、創業者の経歴を確認する場合があります。
余計な疑いを抱かれないためにも、創業者の情報開示は進んで協力するようにしましょう。
会社ホームページの有無
事業活動の実態や会社の信用度を確認するために、会社ホームページの確認が行われる場合があります。この際、会社情報だけが記載された簡素なホームページであると信用度が低下します。
法人口座を開設する際に利用する金融機関の選び方
法人口座は都市銀行・地方銀行・ネット銀行など、さまざまな金融機関で開設可能となっており、銀行ごとで提供するサービスに違いがあります。
ここでは、法人口座を開設する金融機関を選ぶ際に、考慮すべきポイントを解説します。
ネットバンキングに対応しているか
現在社会において法人口座がネットバンキングに対応していることは、実務上の利便性を考慮して必須です。法人口座開設時は必ずネットバンキングに対応している金融機関を選ぶようにしましょう。
また、ネットバンキングのシステムが、自社パソコンのOSに対応していることも確認してください。
ネットバンキングにアクセス可能な時間帯はいつか
金融機関によって、ネットバンキングにアクセス可能な時間は異なります。特定の曜日や時間帯などで、アクセスできない場合がある点に注意しましょう。
なるべくアクセス可能な時間帯が長く、会社の業務に影響を及ぼさない金融機関で口座を開設してください。
どの程度の期間、入出金明細を確認できるか
会社の実務上、過去の入出金を確認することは、頻繁にあります。しかし、法人口座の入出金明細は無制限に過去の情報を確認できるわけではなく、金融機関によって閲覧できる期間が異なります。
実務に影響を及ぼすほど短い期間が設定されているところは避けて、なるべく長期間の入出金明細を確認できる金融機関を選びましょう。
月額基本料と振込手数料は必要か
法人口座は無料で利用できる金融機関もありますが、一般的には月額基本料が必要となります。また、振込時には振込手数料が発生することがあります。無駄なコストを抑えるために、法人口座の利用料金や手数料は必ずチェックしておきましょう。
まとめ
法人口座を持つことによって得られる社会的信用は、会社の経営において大きなアドバンテージとなります。
しかし、法人口座は一般口座よりも開設に必要な手続きが煩雑で、開設完了まで一定の期間が必要です。そのため、本格的に法人を経営するためには、時間に余裕を持って入念な準備を行う必要があります。
これから法人を設立する方や、個人事業主から法人成りする方は、将来を見越して早めに法人口座の開設準備を検討してください。