副業会社員やフリーランスの中には「開業して個人事業主になるべき?」と迷われている方もいるのではないでしょうか?
収入がそこまで多くないと「白色申告でも問題なさそう」と感じるものですが、もし開業した場合どのようなメリットがあるのか、気になりますよね。
ここでは副業会社員やフリーランスが開業し、個人事業主となるメリットをご紹介します。
開業して個人事業主になる手順や、青色申告の申請方法なども解説しているので、よろしければ参考にしてみてください。

副業やフリーランスで開業しないとどうなる?
会社員をしながら副業をしている人や、フリーランスとして働きはじめたばかりの人には「ひとまず開業届を出さず活動する」という方も多いですよね。
開業をしない場合、確定申告では一般の人が広く利用する「白色申告」を使い、税金の申告をおこないます。
毎月の収入が数千円~1万円程度の微々たるものであれば、白色申告でも問題ないでしょう。
しかし、数万~数十万円など、所得が増えてきた場合は別です。
開業しないまま事業の規模や収入額が大きくなった場合、以下のようなデメリットが生じる可能性があります。
開業して青色申告する場合に比べ、納税額が増える恐れがある
白色申告は申請などもいらず、帳簿付けや確定申告がかんたんなメリットがあります。
その一方で、開業した個人事業主が申請できる「青色申告」を利用できません。
青色申告にはさまざまな控除制度があり、課税される所得額を減らすことができます。
また、青色申告の場合は、赤字になっても3年間赤字を繰り越し、相殺することも可能です。
しかし、白色申告にはこのような“節税ができる制度”がありません。
つまり収入が増えるほど、青色申告したときに比べて税負担が多くなる可能性が高いのです。
経費と認められる支出の範囲・金額が狭い
自宅を使って事業を行う場合、事業に使った固定費に対し、割合に応じた支出を経費にすることができます。
いわゆる「家事按分」と呼ばれるルールです。
- 家賃
- 光熱費
- 水道代
- ガス代
- 電話料金
- インターネット料金
- スマートフォンの通信費
家事按分できる条件は、白色申告(未開業)と青色申告で大きく異なっています。
白色申告の場合 | 青色申告の場合 | |
---|---|---|
経費と認められる支出、および家事按分の割合 | 原則、事業に50%以上使っているもののみ経費計上できる (例) 家賃8万円の自宅の30%を事業に使用 | 事業に使った割合に応じ経費計上できる (※合理的に区分できる金額) (例) →8万円×20%=1.6万円 |
白色申告では原則として、事業に使っている割合が50%を超えないと、経費として認められません。
半分以下でも経費計上できるケースもなくはないのですが、「仕事用の部屋としてプライベートで一切使っていない」などの明確な区別が必要ですし、それを証明するのも難しいでしょう。
一方、青色申告の場合は、事業で使った割合に応じて家事按分し、経費として申告することが可能です。
仮に事業利用分が10%、20%などの低い割合だったとしても、経費計上すれば所得から差し引かれることになり、結果的に節税につながります。
個人事業主向けの補助金や融資が受けられず、事業の展開・拡大がしにくい
開業していない人は、個人事業主向けの補助金や融資が受けられません。
申請の際に「提出した開業届の控え」などの証明書類が求められるためです。
これらのような方法で資金調達ができない場合、自己資金を貯める、親せきや知人に借りる、クラウドファンディングを利用するなど、限られた方法でしか資金を集められません。
事業拡大へ向けた設備投資などもしにくいため、ビジネスの規模を広げたい人にとってはデメリットに感じるでしょう。
開業して個人事業主になるメリットは?
事業規模が小さいうちは、開業しなくてもデメリットを感じにくいでしょう。
しかし、「副業(フリーランス)だけれど、事業として本格的にやっていきたい」「収入が増えてきた」という場合は、開業し個人事業主になったほうが得になるケースが多いです。
開業した場合、以下のようなメリットが得られます。
青色申告ができるようになり、節税効果が期待できる
開業し個人事業主になると、青色申告を使えるのが大きなメリットです。
青色申告をするには個人事業主として開業したあと、2ヶ月以内に申請を行う必要があります。
青色申告者の税制優遇制度とは
青色申告者となった場合、以下のような税制優遇が受けられます。
- 青色申告特別控除の適用あり(最大65万円)
- 家賃、光熱費などの家事按分がしやすくなる
- 赤字を3年間繰り越し、黒字から相殺できる制度(損失の繰越控除)
- 家族に払った給与が全額「必要経費」として計上できる(専従者給与)
- 30万円までの固定資産が一括で経費にできる(減価償却の特例)
専従者給与の控除に関しては白色申告でも受けられますが、その額は配偶者で年間86万円、親族で50万円と、制限が設けられています。青色申告者は家族に支払った給与が全額必要経費として計上できるため、より節税になります。
経費や控除で課税所得額が減る=節税につながる
そもそも所得税や住民税などの税金は、その年の「合計所得金額」に一定の税率をかけて計算されます。
合計所得金額とは、給与収入や事業所得などを足したあと、経費や所得控除を差し引いた金額です。
経費として計上したお金や控除されるお金が多いほど、課税対象になる合計所得は少なくなり、納付すべき税額を抑えられます。
未開業の人に比べると、青色申告を選んだ個人事業主の方が差し引ける金額が多くなるため、節税効果が期待できるでしょう。
個人事業主向けの補助金・助成金・融資などの申請が可能に
開業届を提出し個人事業主になった方は、国や自治体が行っている補助金や助成金、金融機関等の融資を受けられるようになります。資金調達の方法が増えれば、ビジネスをさらに展開することもできるでしょう。
また「小規模企業共済」にも加入できるようになり、退職・廃業後に備えやすくなります。
屋号付きの銀行口座を作成できるようになり、お金の管理がラクに
開業して屋号(事業の名前)を決めると、屋号付きの銀行口座を開設できるようになります。
事業用の口座を設けることで、プライベートと事業のお金を区別・管理しやすくなるメリットがあるでしょう。
また、個人名ではなくお店や事務所の名前でお金のやり取りができるようになると、対外的な信用度アップにもつながります。
開業して青色申告を選ぶと帳簿付けが複雑になる点に注意
青色申告は節税につながるメリットが多いですが、その分帳簿付けが「複式簿記」という複雑な形式になります。人によっては、事務作業が増えてわずらわしく感じるかもしれません。
確定申告時の提出書類も増えるため、ある程度の知識をつけてから開業するとよいでしょう。
近年では帳簿付けがかんたんにできる会計ソフトなどもリリースされています。
簿記の知識がない方でも帳簿付けができるようになるため、上手く活用してみるのもひとつの方法です。
個人事業主として開業する手順は?
個人事業主として開業する手続きは、実にシンプル。「開業届」を税務署に提出するだけです。
確定申告で青色申告をしたい場合は、いっしょに「青色申告承認申請書」を提出すれば、最短で青色申告者となれます。
- 税務署へ開業届、青色申告承認申請書を提出する
- 年金や保険の切り替え手続き(対象者のみ)
- 屋号付き口座の開設(任意)
1.税務署へ開業届、青色申告承認申請書を提出する
開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)は税務署の窓口でもらえるほか、国税庁ホームページからもダウンロードできます。「青色申告承認申請書」についても同様の手段で入手できますので、まとめて準備しておくとよいでしょう。
参考リンク
[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁
[手続名]所得税の青色申告承認申請手続|国税庁
開業届の書き方や提出の流れについては、こちらでくわしく解説しています。

2.年金や保険の切り替え手続き(対象者のみ)
開業にともない会社等を退職した人は、国民年金・国民健康保険への加入(切り替え)手続きが必要です。
お住まいの自治体へ行き、早めに手続きを行いましょう。
※副業などで退職をしていない方は手続き不要です。
3.屋号付き口座の開設(任意)
開業時に屋号を付けた場合は、屋号付き銀行口座の開設手続きをしておくとよいでしょう。
主な必要書類は「開業届の控え」「本人確認書類」などですが、細かな準備物は金融機関によっても異なります。
あらかじめ確認しておくと手続きがスムーズです。
開業はかんたんにできる! 個人事業主になることも検討してみよう
開業そのものは副業やフリーランスの方でもかんたんにでき、お金もかかりません。
また開業することで青色申告による大きな控除が受けられるため、収入額が多い人ほど検討の価値はあるといってよいでしょう。
また2022年8月現在、国では「会社員の副業において、副業収入が300万円を超えない場合は『雑所得』として扱う」という法改正の案も出ています。
事業所得から雑所得になれば、経費計上できる支出の範囲が狭くなり、実質の“税負担”が増えるおそれもあるでしょう。
ただ、仮に案がそのまま通るのであれば、いっそ「開業して個人事業主&青色申告者になり、バリバリ稼いで事業所得として認めてもらう」という道も考えられます。
本改正案についてはいまだ議論の途中であり、どのような結果になるかは不明です。
しかし「副業で稼いでみたい」「本業と同じぐらい稼ぎたい」と考えているのであれば、副業でも開業届を出すメリットは大きいのではないでしょうか。