起業時や経営を行う上では「資金調達」が欠かせません。この資金調達をする際に必要なのが「事業計画書」です。ここでは事業計画書の概要や記載すべき事項、書き方のポイントをご紹介します。
事業計画書とは?作成する目的やメリット
事業計画書は、事業の内容や収益の見込み、企業の戦略を客観的に説明する書類です。
引用元:各種書式ダウンロード(学習塾の記入例より)|日本政策金融公庫
創業者のビジネスアイデアを具体的な書面として書き起こすことで、第三者に「事業の将来性がある」ということを示せるようになります。
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事業計画書を作成する目的
事業計画書の提出先は金融機関や投資家、起業家支援サービスを行っている事業者などです。
提出の目的はおもに「資金調達」であるほか、事業承継や起業家支援制度などを利用する場合にも提出が求められます。
- 資金調達(融資、出資、投資など)
- 事業承継
- 起業家支援サービスの利用
事業計画書のメリット
事業計画書は「ビジネスをどうやって成功させるか」「どのように資金を回収するか」を証明するものです。
また、事業計画書で事業内容、今後の展望について具体的に示すことで、以下のようなメリットが得られます。
- 事業について可視化でき、自身の思考整理にもつながる
- 文字に起こす過程で事業やアイデアについて具体性が高まる
- 売り上げ目標、今後の展開について数値、データ化できる
- 市場環境や競合のデータを調査することで事業戦略に反映しやすくなる
- 融資等の審査に有利になる
第三者に伝わる事業計画書を作成することで、対外的に自社の事業をアピールしやすくなるだけでなく、自身の思考を整理し、言語化することができます。
また、事業計画書によって融資や出資などの支援を受けやすくなるのも大きなメリットです。
事業計画書の書き方!必要な記載事項とは?
事業計画書には公的なフォーマットがあるわけではなく、内容はあくまでも会社それぞれが任意で作成します。一般的な事業計画書としては、以下の10項目を記載します。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
- 創業者のプロフィール
- 会社の理念、目的、ビジョン
- 事業内容と想定顧客
- 自社の商品・サービスの特長や強み(競争優位性)
- 市場環境
- 販売・マーケティング戦略
- ビジネスモデル
- 売上計画
- 利益計画
- 資金調達計画
1.創業者のプロフィール
事業計画書には創業者、および創業メンバーの経歴、資格を記載するケースが多いです。
これまでの経歴や実績などを記載し、それを根拠として事業を立ち上げたという旨を記述することで、事業の成功可能性を示すことができます。
2.会社の理念、目的、ビジョン
事業計画書では、会社としての理念やビジネスの目的、ビジョンを明確に記すことも重要です。
仮にビジネス未経験であったり、起業経験がなかったりする場合でも、起業にかける「熱意」は示せます。
この熱意を理念や目的、ビジョンといったもので表現することで、読んだ相手の感情を揺さぶることができるのです。
事実、事業計画書でビジネスにかける思いをつづることで、熱意が伝わって資金調達等の目的を達成できる場合もあります。
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3.事業内容と想定顧客
事業計画書に欠かせないのが、これから手掛けるビジネスの内容、およびその想定顧客です。
- どのような商品、サービスを提供するのか
- どんな市場や客層がターゲットなのか
これらをわかりやすく記載しましょう。
4.自社の商品・サービスの特長や強み(競争優位性)
事業計画書には、自社の商品やサービスの特長、他と比べた強みを記載しましょう。
これは「競争優位性」ともいいますが、他社と差別化できている点、独自の付加価値がある点などはどんどんアピールすべきです。データや表なども活用しましょう。
競合が強いマーケットへ参入する場合などには、特にこの項目が重要視されます。
5.市場環境や競合の状況について
事業計画書には参入予定の市場ニーズと規模、競合他社の存在などの「市場環境」も記しましょう。
また競合の状況や自社の立ち位置についても明記するとよいでしょう。
肌感によるものだけでなく、調査データと合わせて記載することで説得力が増します。
調査データは国などが行ったものでも、独自調査によるものでもかまいません。このとき、ターゲット層を絞った調査情報(セグメント情報)であるとより具体的なアピールができます。
6.販売・マーケティング戦略
事業計画書では販売方法やマーケティング戦略についてもプランニングすべきです。
アイデア重視の行き当たりばったりのビジネスは成功率が低く、成功したとしても長続きすることはまれです。
仮にいい商品であったとしても、販売や宣伝がうまくいかなければ認知してもらえず、そのまま埋もれて消えていきます。
そのため、「どのようなルートで認知を獲得し、どういう人員・予算・手法でマーケティングを行っていくか」という道筋をはっきりと示しましょう。
ここが明確になっていれば、読み手にも「計画的にビジネスを成功させようとしている」という印象を与えられます。
7.生産方法や仕入れ先
商品・サービスの生産方法や仕入れ先が決まっている、または予定している仕入先がある場合は、事業計画書に記載しておきましょう。
生産方法や仕入先が確立していて、かつそれらが安全かつ信用に足るものであれば、事業に対する信頼度も高まります。ひいては、ビジネスへの“真剣さ”が伝わりやすくもなるでしょう。
8.売上計画
事業計画の要ともいえるセクションが「売上計画」です。
事業の立ち上げにおいては、「商品やサービスをどうやってたくさん売り、利益を上げるか」が問われます。
- どうやって売上を上げるか
- 原価はいくらになるか
これらを商品・サービス単位で記載するとともに、
- 複数の商品サービスを展開する場合、どの要素を主軸に伸ばしていくのか
についても記載しましょう。
9.利益計画
事業の成功は「利益を多く上げること」といっても過言ではありません。
そのため、利益計画についてはできる限り細かく予測し、記載しましょう。
- 売上
- 売上原価
- 人件費
- 減価償却費
- 販売費
- 管理費
- 借入利息
- 法人税等
10.資金調達計画
利益と合わせて重要なのが「資金調達」の計画です。
利益は事業の成功に直結するものですが、利益が出ているからといって資金力がある、というものではありません。
資金力がない企業は返済能力も疑問視されやすいため、融資の申し込みを行う場合には「資金をどのように返済するのか」「返済可能な自己資金がどのくらいあるのか」を明確に記すことが重要です。
事業計画書の書き方のポイント
事業計画書の書き方のポイントは以下のとおりです。
- 内容は具体的かつ細かに記載する
- 整合性と簡潔さを重視
- 競合の分析、比較データを記載
- 数値で根拠を示す
それぞれ見てみましょう。
内容は具体的かつ細かに記載する
事業計画書には計画のほか、創業者のプロフィール、ビジネスモデル、取引先、解決すべき課題なども盛り込むとよいでしょう。
計画やデータのみの事業計画書は、第三者から見ると意図が掴みづらくわかりにくくなる可能性があります。
そこで、会社の概要や意向が、ビジョンが伝わる要素を細かく伝えることで、第三者に説得力を持ってビジネスプランを伝えやすくなるのです。
整合性と簡潔さを重視
事業計画書は細かく作成することが重要ですが、かといって内容を盛り込みすぎるとわかりにくくなる場合もあります。
そのため、盛り込みたい内容を書き出したあとは精査し、整合性を持たせながら簡潔にまとめていくとよいでしょう。
競合の分析、比較データを記載
事業計画書では自社の計画だけでなく、市場を取り巻く状況や競合についても明記することが重要です。
市場全体の環境や状況、競合の状況などを比較対象として取り上げることで、これから自社が行うビジネスの強みや独自性などを示しやすくなります。
また市場や競合について細かく分析されていることが分かる事業計画書は、第三者から見ても説得力のある内容となります。また文字だけでなくグラフや図解なども使用し、直感的にわかりやすい内容へまとめることも大切です。
現実的な数値で根拠を示す
事業計画書では数値で具体性を持たせることが重要です。しかしながら、その数値に根拠がないと、説得力に欠けるものとなってしまいます。
数値を記載する場合は、必ず「現実的、かつ実現可能な数値」を記載しましょう。
また数値の裏付けとなるデータ、出展などがある場合は、そちらも必ず掲載します。
事業計画書のテンプレートの入手方法
事業計画書のテンプレートとしては「日本政策金融公庫」で融資を申し込むときの様式を使用する場合と、自身で作成する場合があります。後者の場合は、創業支援サイトを参考にして様式を作成するか、テンプレートをダウンロードし必要事項を記入すると抜け漏れなく記載ができるでしょう。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫(日本公庫)は、国の政策に基づいて運営される政策金融機関です。
起業・創業に活用できる融資制度が提供されており、比較的低い利率で融資が受けられます。女性や若者、シニア向けの創業融資制度があるのも特徴です。
日本政策金融公庫では、事業計画書に相当する「創業計画書」の様式、および記入例がダウンロードできます。これから起業される方はぜひチェックしてみてください。
J-Net21
J-Net21は独立行政法人の中小企業基盤整備機構が運営する「中小企業や創業予定者、およびその支援者」のためのポータルサイトです。
J-Net21では事業計画書の作成例を掲載しています。内容はもちろん、様式の構成を参考にして作成することでスムーズに記入を進められるでしょう。
参考:事業計画書の作成例 | 起業マニュアル | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]
事業計画書の記入例3選
事業計画書を作成しようと意気込んでも、書き方にお困りになる方は多いものです。
特に「起業の動機」や「セールスポイント」「集客方法」等については、どこまで具体的に書けばいいのか、どのような表現を用いれば良いのかといった悩みが生じがちです。
本項では、日本政策金融公庫とJ-Net21に掲載されている記入例を3つご紹介します。それぞれを参考にしつつ、ご自身の言葉で事業内容を説明することを心がけてみてください。
1.飲食業の場合
1つ目は創作料理を中心とした洋風料理店を開業する場合の記入例です。
セールスポイントの欄ではドリンクの種類の豊富さや地産地消へのこだわり、イベント開催などの独自性をアピール。メインターゲット層や競合など市場の状況についても詳細に記載し、事業に対する計画性や熱意が伝わる事業計画書(創業計画書)となっています。
また事業の見通しとして、創業から1年後のシミュレーションを事細かに記載することで事業の安定性についても説得力を持たせています。
2.小売業の場合
引用元:J-Net21|事業計画書の作成例(ベビー服小売業)
2つ目はベビー服のネットショップ販売業の例です。これまでの経験やキャリア、資格などに加え経営に必要な簿記検定の資格を記載することで、事業を成功させるための説得力を持たせています。
また子育ての経験や起業のきっかけ、消費者のニーズや競合点の傾向なども記載し、製造から仕入、集客、販売までの流れについても細かく説明しているのも特徴です。
事業計画書の後半では具体的な数値計画、およびスケジュールの流れについても記載し、計画性がある起業であることをアピールしています。
3. ソフトウェア開発業の場合
引用元:日本政策金融公庫|創業計画書の記入例(ソフトウェア開発業)
3つ目はソフトウェア開発業での事業計画書例です(日本政策金融公庫の様式のためここでは『創業計画書』を使用しています)。
取扱商品・サービスの内容欄では、顧客管理や財務管理のシステム開発をメインに据え、医療関連機器のファームウェア開発やコンサルティングなども行い売上確保をすることを記載しています。
販売ターゲットと販売戦略、自社の優位性・強みなども記載した上で、融資の目的(運転資金が必要な理由)についても明確な理由を記載。事業の見通し欄で売上予測の根拠を提示し、収支の流れをはっきりと示している点も参考にしたい部分です。
担当者は事業計画書のこんなところをチェックしている
事業計画書においては“オリジナリティと整合性”が特に重要視されます。事実、提出先の担当者は「独創性があるか」「企業としての強みが書かれているか」といった部分をくまなくチェックしているため、仮に他社の事業計画書をコピーした場合は簡単にバレてしまいます。
とはいえ、初めて事業計画書を作成される方にとっては「どんな点に気をつけて作成すればいいかわからない」とお悩みになるのではないでしょうか。
そこで本項では、担当者が事業計画書についてどのような点をチェックしているのかをご紹介します。以下①〜③を事業計画書作成のご参考としてぜひ把握しておいてください。
①経営者として必要な資質が備わっているか
事業計画書では以下のような「経営者としての資質」をチェックされます。
- これまで積んできた経験は何か
- 経営者向きの性格か(自立心や社会性、協調性などがあるか)
- 営業や接客経験の有無
- ロジカルシンキング(論理的思考)でビジネスを考えられるかどうか
- 金銭・数字に対する考え方が適切か
- 金融機関への情報開示状況に透明性があるか
- 事業・経営に対する熱意、本気度があるか
事業そのものはお金さえあれば興せますが、継続し成功を収めるためには経営者が重要な鍵となります。よって融資審査の担当者は、「この人物なら起業して成功を収められるのか?」といった経営者としての資質をチェックしています。
②財務状況に無理がないか
次にチェックされるのが、その企業の財務状況です。
- 現在の資産
- 抱えている負債
- 各種支払いの遅滞等がないか
たとえば事業計画書の提出時点で資産が少なく、負債額が大きい(または支払いに遅滞が発生している)という状況では融資審査に落とされる可能性も高くなります。
一方、十分な資産があり、負債の返済も滞りなく行えている場合は、経営が安定しているとみなされやすくなるため融資もスムーズになる可能性が高まるでしょう。
よって事業計画書には現在の財務状況を整理し、わかりやすく記載することを心がけましょう。
③収支の見通しがよく予想収益を実現できそうか
3つ目のチェックポイントは「収支の動き」に関する項目です。
融資担当者はここを確認することで、「確実に返済できるのか」を判断します。
- 投資目的(設備投資など)と資金調達の方法が見合っているか
- 予想収益に対し実現できる可能性がどれだけあるか
- 資金繰りの見通しは良いか
- 予想収益より実際の収益が少なかった場合にどのようにして補填するのか
融資元には「確実に収益を上げて返済が滞りなく行われるのか」という懸念があり、万が一融資した企業の資金がショートして返済できなくなることがあれば、大変なリスクとなります。
つまり融資担当者は「その企業が堅実な事業を行おうとしているのか」をチェックし、より堅実性の高い企業へ融資を行いたいと考えているのです。
個人事業主でも事業計画書は作成すべき?
個人事業主については、開業時に事業計画書を求められることはありません。開業届を提出しさえすれば、個人事業主として開業することができます。開業以降も融資などを受けないのであれば、特に作成する義務はありません。
ただし、個人事業主向けの融資・ローンや各種助成金・補助金の申請を行う場合には、事業計画書の提出が求められるケースがあります。
また、事業計画書を作成することには事業の目的・資金繰りが整理され明確に把握できるメリットもありますので、気になる場合は作成してみるのもよいでしょう。
ビジネスのビジョンを事業計画書で示そう
事業計画書の書き方は比較的自由度が高く、必要事項さえ盛り込んでいればどのような書式でも問題ありません。
また、事業計画書の書き方が分からない場合は、商工会議所などで行っている起業家サポートサービスを利用したり、事業計画書作成ツールなどを利用したりするのもよい方法です。
さらに、事業計画書を作成したあとは、プロジェクトメンバー、支援者等にフィードバックをもらうことも大切です。
事業を成功させるためにも、事業計画書で客観的なビジネスプランを提示できるようにしましょう。