私募債とは? 2種類の私募債の特徴
私募債は、会社が資金調達を目的に発行する「社債」という債券の一種です。
投資家が債券を購入すると、会社はそのお金を経営資金として利用できます。
社債のうち、私募債は「ごく限定的な相手にのみ発行をするタイプの社債」と定義されています。
私募債を含む債券には「額面」と「償還日」が設けられており、償還日を迎えた時点で額面分のお金が購入者に支払われます。「債券の購入という形でいったんお金を預けておき、日が経ったら戻ってくる」とも言い換えられるでしょう。
投資家は額面より低い金額で私募債を購入していた場合、償還された時点で“差額分の利益”が得られます。
私募債には2種類があり、それぞれ人数や発行の対象が異なります。
プロ私募債
プロ私募債とは、証券会社、銀行、信用金庫などの「適格機関投資家」を対象とした私募債です。いわば、プロの民間投資家をターゲットにした私募債ともいえるでしょう。
プロ私募債には募集人数や発行総額に制限はないものの、後述する「少人数私募債」に比べると購入者を探すハードルが上がるデメリットがあります。
日本では上場企業、および中堅企業がこのプロ私募債を発行するケースが多いでしょう。
少人数私募債
少人数私募債は、49人以下を対象に募集をかける私募債です。
先述したプロ私募債と異なり、一般の投資家に対し債券発行ができるのが特徴です。担保や保証人も原則として必要ありません。
そのため少人数私募債では、経営者の縁故者(親族、友人、取引先など)に買い受けてもらうケースが多く見られます。
少人数私募債の発行には、以下のような決まりが設けられています。
- 転売(譲渡)制限を設ける必要あり
- 取得勧誘を行う相手の人数制限(6ヶ月未満で49人以下)
- 発行総額1億円未満、1口あたりの発行額は総額の50分の1以上
これは金融商品取引法という法律で定められているルールで、違反した場合には懲役や罰金などの罰則が課せられます。
「銀行引き受けの私募債」とは?
私募債は「プロ私募債」「少人数私募債」の2つに分類されると述べましたが、その他にも「銀行引き受けの私募債」というものがあります。
銀行引き受けの私募債とは、企業の代わりに銀行が投資家を募集してくれる社債です。
銀行引き受けの私募債は、いったん銀行側が私募債を買い付けたあと、投資家へ販売・保証などを行う仕組みとなっています。わかりやすく言うと、“私募債の販売代行”をしてくれるのです。
銀行引き受けの私募債には「銀行保証付私募債」「信用保証協会保証付私募債」の2種類があります。
- 銀行保証付私募債
- 信用保証協会保証付私募債
→銀行だけで引き受けと保証を一貫して行う形式。
企業は投資家を探す手間が省けるが、審査は厳しめになることが多い。
保証費用や事務委託手数料、利息等を支払う必要がある。
→引き受けは銀行が、保証は銀行・信用保証協会が共同して行う方式。
2つの機関に保証費用を払う必要がある。
銀行引き受けの私募債を利用する場合は、どちらのタイプかを確認、比較検討したうえで決定しましょう。
私募債発行のメリット・デメリット
私募債の種類がわかったところで、次は私募債を発行するメリット・デメリットについて見ていきましょう。
私募債発行のメリット
私募債を発行するメリットとしては、以下が挙げられます。
- 資金調達ができる
- 発行手続きがかんたん
- 担保、保証人が原則として不要
- 一定の信用力が得られる
投資家に私募債を購入してもらうことで資金調達ができるのは言わずもがなですが、公募債などの債券に比べて発行がかんたんなこと、融資のように担保や保証人が不要なことなどは私募債の大きなメリットです。
また私募債の発行、買い受けをしてもらった実績により、企業に対する信用力も得られるでしょう。
私募債発行のデメリット
私募債にはデメリットもあります。
- 発行方法によってはコストが高くつく
- 大規模な資金調達には不向き
- 償還日に額面のお金を一括返済しなくてはならない
私募債には「銀行引き受けの私募債」がある、というのは先述のとおりですが、こちらを利用した場合は保証費用などの利用コストが発生します。コストを抑えたい場合は、自社で管理をする「少人数私募債」を選ぶ必要があります。
ただし、少人数私募債は49人までしか購入者をつのれないため、大規模な資金調達には向いていません。多額の資金調達をしたい場合は、別の方法を選択する必要があるでしょう。
また私募債はあくまでも「借金」のようなものなので、償還日に投資家へ元金を返還する必要があります。返済猶予や分割払いなどの制度もないので、償還のための資金を確保しておかねばならないのです。
私募債と公募債の違いは?
私募債とよく比較されるのが「公募債」です。
私募債は先述のとおり、限定的な範囲で購入を呼びかけ、少数に買ってもらう社債です。規模が小さい分、一般的な社債に比べ発行手続きも少なく済みます。
一方「公募債」は、私募債と対照的に「不特定多数を対象とした社債」です。
私募債と同じ債券ではあるものの、公募債の発行には社債管理会社の設置、有価証券報告書・有価証券届出書による「企業の財務状況に関する情報開示」といった複雑な公募手続きが必要になります。
このように公募債は、手続きが複雑にはなるものの、私募債に比べると多くの投資家に購入を呼びかけやすいのが特徴。大規模な資金調達をしたい企業には、公募債での資金調達が向いている場合もあるでしょう。
私募債による資金調達が向いている企業とは?
私募債の特徴について学んできましたが、自社に向いているのかが気になる方も多いのではないでしょうか?
私募債を使った資金調達が向いている企業は、以下の3つです。
- 小規模企業
- ベンチャー
- 合同会社などの持分会社
小規模企業
起業したての小規模な会社にとって、私募債は有効な資金調達方法だといえます。
特に少人数私募債であれば、資金調達をするうえでのコストや手間も少なく、担保・保証人を準備する必要もありません。
ベンチャー
ベンチャー企業では、資金調達方法のひとつとして私募債を活用する方法があります。
近年ではVC(ベンチャーキャピタル)やエンジェル投資家からの出資、クラウドファンディングなどを活用するベンチャーの割合が増えつつあります。もちろん、株式の発行や融資、補助金の利用といったベーシックな資金調達方法も健在です。
このような手法で資金調達を行っても、資金が不足する。または、本業が不調で新たな融資ができないといった場合の奥の手として「私募債の発行」を選ぶ企業が増えています。
合同会社などの持分会社
合同会社や合資会社、合名会社などの「持分会社」は、株式会社と同じ「会社」のひとつ。しかし、株式の発行や上場での資金調達はできません。
株式と異なり、私募債は会社形態にかかわらず発行が可能です。株式による資金調達ができない持分会社にとっては、有効な資金調達方法となり得るでしょう。
私募債を活用する方法とは?
発行が比較的かんたんな私募債ですが、実際の企業はどんな用途に私募債を活用しているのでしょうか。
- 新製品の開発資金として
- 事業進出資金の調達方法として
- 運転資金の確保に
私募債を自社発行することで、金融機関に頼らない資金調達ができます。とりわけ、少人数私募債ならば、少人数が対象にはなるものの、1億円までの資金を集めることができるのです。これを利用し、新商品・サービスの開発資金に充てたり、新規事業の進出資金として活用したりする企業が多く見られます。
新たな商品や事業を生み出す場合、成果が出ない限りは売上も発生しません。まずは私募債で先行投資し、より確実性・成功性の高いビジネスを生み出そうという考えが生まれるのは自然なことだといえるでしょう。
また、小規模企業や起業して間もない会社の「運転資金」として、私募債を活用するケースも多いです。私募債は償還日に一括で元金の支払いが必要にはなるものの、毎月の返済が不要です。これによりキャッシュフローが安定しやすく、事業へと注力しやすくなる効果が期待できるでしょう。
私募債をうまく活用しよう!
私募債は低コストかつ少ない手間で資金を得られる資金調達方法です。また他の資金調達手段に比べると、発行開始から実際に資金調達が完了するまでの期間が短い利点もあります。
起業して間もない小規模企業や、株式発行ができない持分会社は、私募債を活用してみるのも手でしょう。
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